罪と罰 唾と蜜



神さまがいると仮定して話をしよう。
まず、そいつは僕たちを作り上げこの地に産み落とした。ある一組の男女のもとに。その男女が僕たちの両親となるわけだ。神の手に操られ様々な経験をして、僕たち自身も両親になるときがくるだろう。そして産み落とされる、もうひとつの命。それが繰り返される。神さまとやらの手で。


ふざけるな。






「どうやら、きみも末期のようだな、シリウス」


ジェームズが眼鏡を押し上げつつ、大層なため息をついた。ため息の原因とおぼしきシリウスは、顔をしかめた。


「なんだ突然・・・、おまえが末期なのは知ってるが、俺がだって?」


意味が分からないといった様子で、刺々しく返事を返す横で、リーマスがその会話に耳を傾けていた。


「僕は自分の気持ちに嘘をつくやつが死ぬほど嫌いってことだよ」


シリウスは首を傾げる。うそとはなんだ?なんだってこいつはそんなこと言い出すんだ。


「どういう意味だか、具体的にはっきり言ってくれ」
「なんだい、人がせっかくきみの気持ちを汲んでやってるというのに」


ジェームズが半ば楽しむような顔をした。ああ、まずい。なにか良からぬことを口にしようとしているに違いない。シリウスは息を呑み、後悔した。


「きみ、のことが好きなんだろ」


シリウスとリーマスが同時に吹き出した。やっぱり、良からぬことを言いやがった。


「な、ななんで・・・、そそそうなるんだ!」


焦る自分の姿が白々しく思えて仕方がなかった。だが、己の恋する相手がマカートニーというほうが馬鹿馬鹿しい。




は混血の天才だった。呪文はその日の授業で完璧に身につける。試験は赤点など見たことがない。記憶力は抜群で、魔法動植物の名前から特徴まで、完璧に暗記している。得意科目は闇の魔術に対する防衛術。苦手なのは魔法薬学。実験は、ペアを組んだ女子生徒に任せっきりなのが、常だ。その姿がくっきりと目蓋に張りついて離れない。いや、なぜそんな少年の姿を覚えてる?いつも見ていた、のか。どうして?


その夜は眠れなかった。ジェームズの言葉が離れず、鼓膜にこびりついている。恋愛感情を誰かに抱いたことなどなかった。しかも、はじめて恋した相手が、


か・・・我ながら笑えるな・・・」


シリウスはベッドの中で自嘲した。ルーモス、と囁くと、右手に持った杖先に光が灯る。シリウスは気を散らすために、小難しい本を読み始めた。


昔、と中庭で会話を交わしたことがある。


「きみはあのブラック家の人間なんだろう」


そう声をかけられた。その言葉が気に障り、少し睨み付けると、困ったよう笑われた。人を馬鹿にするような笑みではなかった。
奇麗な髪を耳までのばした姿は、見たこともないほどの美しさを持っていた。目の色は鮮やかなグリーンで、印象が強い。なにより中性的な顔つきで、男子生徒すら見惚れるものだった。


「気に障ったかい?」悪気のない、謝罪を含んだ声。
「・・・別に」自分の刺々しい声が、幼く聞こえる。
しかし、


「いいね、きみは。あのブラック家の御曹司、金もある、何をしたって許される、才能も腐るほど持ってる。羨ましいかぎりだよ」


今までの優しく心地のよい声が一瞬で化け、憎しみを孕み、すさまじく淀んだものになり、シリウスを罵倒する言葉を放った。シリウスは驚いた。怒りや悲しみなどではなく、驚きだった。今、なんて言った?の緑色をした双眸が、攻撃的な光を放ってから、閉じられる。冷静さを取り戻そうとしているようにも見えた。


「神さまがいると仮定して話をしよう。
まず、そいつは僕たちを作り上げ、この地に産み落とした。ある一組の男女のもとに。その男女が僕たちの両親となるわけだ。神の手に操られ、様々な経験をして、僕たち自身も両親になるときがくるだろう。そして産み落とされる、もうひとつの命。それが繰り返される。神さまとやらの手で・・・ふざけるな、なにが神だ、なにが運命だ宿命だ。よい家柄に生まれず、ましてや純血でもなかった僕が、どれだけ馬鹿にされ蔑まれ、つらい思いをしたか、おまえに分かるか。母がマグルだったことをどれだけ憎んだか、おまえに分かるか。いや、分かってたまるか、おまえのような坊っちゃんに。腹が立つ、おまえの顔を見ると腸が煮え繰り返りそうになるんだよ…ッ!」


強烈な怒りだった。優しい顔をしていて、実はこんなにもおぞましい憤怒を隠し持っていたなど、誰が知っていただろうか。シリウスは、の瞳に宿るエメラルドに視線を向けることしかできなかった。


























2008/02/12 (Tue)