景吾の隣を歩いていると、周りの人の反応が面白いとは思った。やはり彼は別世界の人だ。彼の美貌にみんな驚愕に近い興奮を見せる。通り過ぎた人が振り返る。それが彼の日常に散らばっている常識なのだろうか。彼はほんとうに磁石みたいな人だ。他人の興味や好意を引きつけることに長けている。(自分も相当人目を引く外見をしていることは、棚において)




blooming beaming #5 隣人と休日







やはり休日は客が多かった。エスカレーターにはずらりと人が並び、アイスクリームパーラーもまた然り。新しいリュックがほしかったのだが、途中で(人混みに酔って)ギブアップした景吾のせいでゆっくり探せなかったは、だからといって景吾を責めるわけにはいかなかった。やはりこんな人混みに彼は慣れていな いのかもしれない。怯えた表情のまま自分のパーカーを掴む景吾はちょっと可哀想だった。
今は精神をすり減らした景吾のためにスタバで休憩中だ。


「なんで同じ場所にこんなに人間が集まるんだ・・・」


青い目が鋭く群衆を睨む。だがその目もどこか覇気がない。
やっぱアウトレットなんて連れてくるんじゃなかった。スタバでぐったりとしながらキャラメルマキアートを啜っている様は、二日酔いのサラリーマンみたいだ。からしたらアウトレットなんかは、オペラや乗馬より楽しい遊び場所なのだが。


がせっかく提案してくれたんやから、そう愚痴ったらかわいそうやろ」


隣に座っていた忍足が「な?」といった様子での顔をのぞく。そのとき、の向こう側にいた景吾が容赦なくこちらを睨んでいることに、忍足は気づいた。


「・・・さっきからずっと気になってんだが、」
「なに?景吾くん」
「なんでてめえがいんだよ忍足・・・呼んだ覚えねえぞ」
「なんでって・・・が誘ってくれたからおるんに決まっとるやろ?おまえに誘われたかって来えへんわ」


忍足は、の頭を撫でて景吾を一瞥する。目があった景吾は一層厭な顔をし、嫌悪を露わにした。目がぎらぎらと炎に揺れている。
二人の視線が衝突し、火花が弾けていることも露知らず、はパンツのポケットに両手を入れてぼんやりとカフェオレを眺める。ふたりの口げんかにはもう慣れてしまった。


今日は土曜。この計画を立てたのはまさしく副部長の<だった。忍足に同行を頼むと快く承諾してくれて、いつも忙しい景吾の息抜きになればと今日を迎えたのだが。結果景吾を振り回すことになってしまったらしい。こんなふうに家族のために行動するのなんか初めてのことだったから、いささか楽しみで浮き足立っていたのかもしれない。家族のために。それこそがにとっての最大の幸せだったからだ。・・・ちょっと反省。


その後、景吾との諍いを一段落させた忍足が口を開いた。のほうに身を乗り出す。もう景吾に用はないとでも言うかのように。


「なあ、そのパンツどこで買うたん?」


にこにこと笑みを絶やさず問う忍足に、癖毛をいじっていたは視線を毛先からそらすこともなく答える。兄弟愛作戦も失敗に終わり、やる気を喪失したようだった。


「ん〜・・・これは引っ越したときからクローゼットに入ってたやつだからよくわかんねえけど、派手」


赤と紺とグレーがきれいに交差したチェック柄のパンツを摘んで、顔をしかめる。あまり気に入っていないようだ。しかしその色合いは、のチョコレート色の髪によく似合う。デニムのボウタイも息苦しそうだが愛らしい。


「(跡部家すっご・・・ルームサービス的な感じで服が部屋にあんのかい)そんなことないで、むっちゃ似合てるよ(ちゅーか、むっちゃかわええ)。あ、そのスニーカー、アドミラルやん」彼の足下を指さす。


定番のフラットシューズだ。そういえば学校には、ハイカットの、トリコロール色のかわいらしいのを履いてきていた。好きな人の小物やファッションにはつい目がいってしまう。
スニーカーに話を振ると、彼は目を輝かせてようやくこちらに振り向いた。


「うん、この前、景吾くんが買ってくれたんだ」


うれしさを隠そうとせず話すは、幸せを噛みしめているような顔をしていた。さっきまで生気のない顔をしていたのに。そんな彼を見て、忍足は少しだけ景吾に嫉妬した。
嫉妬するのはもう慣れた。今やもう彼の足下のスニーカーにさえ憎らしさを感じている。末期だ。







「こんなところに跡部がいるなんて、珍しいね」


景吾たちが帰路につくために椅子から立ち上がると、背中の方から声がした。振り返ると見知った顔があり、景吾が相手の名を呼ぶ。


「よお、不二か。おまえこそ珍しいじゃねえか。ひとりか?」
「いや、ひとりじゃないよ」


茶色い髪をさらさらとなびかせているフジとやらは首を横に振り、口元に笑みを浮かべた。は忍足に小声で問う。


「テニス部の人?」
「あ?ああ、他校のな。あいつは青春学園の三年、不二周助」
「青学の?強いの?」
「ん・・・まあまあやな」


忍足は少しばかり言葉を濁し、メガネの奥の目を細めた。はもう一つ質問する。


「不二くんの隣の人、背たっかいね、不二くんのお兄さん?」
「(お兄さん・・・ええ響きや)いや、あいつは手塚国光っちゅーて、青学の部長さんや」
「へえ、じゃあ同い年かあ・・・(忍足め、俺を騙そうったってそうはいかないぞ)」


手塚国光というらしい彼は(名前がシブい)、無表情のまま景吾と話をしていたが、その目がを捉えた。


「見ない顔だな」
「ああ、こいつはだ。俺の双子の兄弟」
「・・・双子?そんな話は今まで聞いたことがないが」
「そうだろうな、なんせ兄弟になったのはごく最近だからな」
「・・・・・・、跡部、ヒトというのはな受精卵が着床してから細胞分裂を繰り返し胎盤の中で十月十日を、」
「つまり、そんなことはあり得ないって言いたいんでしょ、手塚」不二が手塚の言葉を要約する。


表情を変えることなく、手塚は混乱に陥っているようだった。双子なら同時に生まれるものなのだから、景吾の言葉が矛盾しているだが、実際は景吾は少しも間違ったことは言っていない。わずかに眉間にしわを寄せる手塚をくすくすと笑った不二は、


「うれしそうだね」


と景吾に言った。景吾のにこやかな微笑に、兄弟のできた幸せがにじみ出ていたようだ。不二の言葉に少し目を瞬かせてから、「まあな」と景吾は誇らしげに答えた。














(20091003 カオスな構成になったけど書きたいことは書き尽くした。)