翌日、の右腕と両足は悲鳴を上げていた。寝心地のいいベッドのおかげで少しは和らいだと思いたい。窓からの朝日に目を細め、深く息を吸った。春先の朝だというのに寒くないのはなんだか季節感に欠けていて嫌だと思った。




blooming beaming #3 足の裏から世界が変わる







メイド三人がかりで制服に着替えさせられる。眠気に包まれた頭で、赤いネクタイは派手で非日常的で恥ずかしいと感じた。前の学校は学ランだったから尚更だ。洗顔しようとしたら暖かい濡れタオルを渡された。冷たい水でないと目が覚めない。髪を整われながら、傍らにいた執事が今日の予定を説明する。


「八時に氷帝学園中校門前に到着、それから学園長のもとに挨拶に伺い、クラスに向かうのはそれからです」
「俺は何組になったんですか?」
「H組です。景吾お坊っちゃまはA組ですので離れてはいますが」
「そうなんだ・・・そういえば景吾くんは?」
「テニス部の早朝練習ですでに出発されております」


夜あんなに猛特訓させていたというのにすごいもんだ。は感服した。朝食を長すぎるテーブルでさっさと食べ終え、歯磨きをした(ここは普通だった)。まだ着慣れていない制服が身に纏わりつくようで。今まで履いたこともなかった革靴も居心地が悪い。まだ余所者扱いみたいだ。
悶々としているの眉間にはしわが寄り、口はへの字に曲がっていた。発車してから真宮が微笑んだのをはバックミラー越しに見た。


「なんすか?」
「ヘンな顔をしていらっしゃったので思わず・・・いえ、申し訳ありません、景吾お坊っちゃまはそのような表情はされませんので、少々驚きまして」
「景吾くんと俺はちがいますから、生まれも育ちも」
「・・・そうですね、失礼しました」


<はじめは礼儀正しく気の優しい少年かと思っていたが、本当は強気で負けず嫌いな少年だ。天使のような髪や瞳の色彩は、寧ろ激情した眼光を露わにさせる時にこそ際 立つ。そう、実際彼の目元は涼しげで切れ長だった。息を呑むほどの整った顔立ちも、手足の長い肢体もまるで景吾だと思ったりする。そういうところは似通ったところがあるのだがと、真宮はひそかに思った。口に出したらまた主人は臍を曲げるのだろう。


予鈴が鳴った。学校に到着してかれこれ三十分ほど経った頃、校長室に担任と思しき男性教師が来た。彼に連れられ階段を上る。筋肉痛には酷く堪えた。二人きりで静まりかえった廊下を歩いていく。3−Hというプレートのついた教室に入室すると、その瞬間に部屋中が喧騒に包まれた。ようするに、だれあれ転校生?という反応だ。
特異なものに向けられる好奇の目には慣れていた。幼い頃からこの目と髪の色のせいで、物珍しいものを見る目をされたことの方が、割合的に多い。興味からされる無遠慮な質問も噂も上等だと、覚悟を携えてきたつもりだったが。やはりこの特異なものを見る目には参ってしまう。


「はーい静かに。今日からH組に転入生が入ってくることになり ました。じゃあ自己紹介」


クラスメートの視線ががつがつと刺さるようで痛い。


「・・・峰崎中から転校してきました、跡部です。よろしくお願いします」


跡b、くらいのところから再びざわざわし出した。たぶんこの名字が引っかかったんだろう。


「今のでなんとなく分かったやつもいるか分からんが、跡部はA組の跡部の親類だ。ということで仲良くするように。じゃあ、あそこの窓側から二番目の後ろが跡部の席だ」


担当にふたつほど肩を叩かれ、教室の奥へすたすた歩みを進める。机と机の間を通る間もずっとひそひそとしたか細い声が鼓膜に届いていた。
親類っていとことかかな?もしかすっと双子かも。それにしては似てなくねえ?跡部様の目は青いもの。跡部様とは違うタイプのきれいな顔よね。やっぱ りテニス部に入るのかしら。でも跡部がいたんじゃ適わねえよ。
血繋がってないから目の色も違うし、テニスじゃ適わないことくらい昨夜思い知らされた。勝手に詮索されることには慣れているが、これはのみの問題じゃない。もしかすると景吾にも嫌な思いをさせかねない。それが腹の底から嫌だった。なぜって、兄弟だからだ。椅子に座ってむかつきを鎮静させながら、目を瞑る。俺をほっといてくれ。構わないでくれ。深呼吸を繰り返していると、隣から肩をつつかれる感触があった。


「跡部クン、」


ちらと振り返ると黒い髪をしためがねの少年と目があう。どうやら彼がつついてきたらしい。にこりと笑みを渡され、その直後自分から放たれた声は明らかに不機嫌だった。


「なにか」
「ああ・・・・、もしかして怒ってはる?」
「(わお、かんさいべん、)・・・ごめん、そのつもりはなかったんだけど」
「いや、俺が突然 声かけたのが悪いんや。気い悪くしたなら謝るわ。俺、忍足侑士。よろしく」


右手を差し出されて自然にそれを握り返していた。関西の方の出身らしい。流暢な、というのかどうかわからないが、とにかく本場の関西弁だ。忍足侑士と名乗った少年は、口元に静かな笑みを添えながらに話しかけた。妙に大人びていて同年代とは思えない。
忍足はにやっと笑うと身を乗り出して、の顔をのぞき込んだ。


「なんや、跡部に似てへんなあ。双子ちゃうん?」


とたんにの形のいい片眉がひくりと微動する。


「だったらなに?」


自然と忍足の口をついて出た言葉に、はむきになって反論した。眉間にしわを寄せた顔は不愉快を形にしている。初対面の人間にそんなことを言われるなんて、予想だにしていなかった。


「や、前言撤回。今の感じむっちゃ似とる。やっぱ血は争えんな」
「俺は景吾くんとは血縁関係じゃないから似てるわけないと思うけど」


そっぽを向いてしまったは嫌みに声をのばして訴えた。完全に拗ねてしまった。・・・まあとりあえず今日はと仲良くなるのが目標だ。忍足は、早くテニス部のやつらに彼を拝ませてやりたいと心底思った。教壇の上で簡素な自己紹介をしていたときは、跡部とは正反対のおしとやかタイプかと思っ たが、このムキになり方は跡部そっくりだ。意外に強がりだ。そこが面白い。それに、あの跡部とは血が繋がってないと言っていたが、それを抜きにしたってその日本人離れした整った顔は異常で、たぶん校内でも跡部ツインズ(通称してみたけどこれは怒られそうだ)(かっこわるすぎるし、これを流行らすのはやめておこう)くらいしか持っている者はいないだろう。緑に透き通る目も人形のように白い肌も、なかなか見ることのできないものだ。配布されたばかりの教科書を開き始めた転入生を盗み見ながら、忍足は昼休みのプランを練ることにした。 転校生はやっぱりこうやないとあかんな。














(20090209 クラスメート忍足。関西弁はめんどくさい!)